◆野菊の如き君なりき [1955年 松竹]

野菊の如き君なりき

[スタッフ]
原作 伊藤左千夫
脚色・監督 木下恵介
製作 久保光三
撮影 楠田浩之
照明 鈴木斌
照明 豊島良三
録音 大野久男
音楽 木下忠司
美術 伊藤熹朔
[出演者]
民子 有田紀子
政夫 田中晋二
老人(政夫) 笠智衆
政夫の兄 栄造 田村高広
女中 お増 小林トシ子
政夫の母 杉村春子
民子の姉 雪代敬子
栄造の妻 さだ 山本和子
民子の祖母 浦辺粂子
船頭 松本克平
庄さん 小林十九二
   
 (白黒 スタンダード 92分)
原作は、明治の歌壇で正岡子規に師事した著名な歌人、伊藤左千夫の小説「野菊の墓」。数十年ぶりに故郷を訪れた老人の追想が、信州の美しい自然を背景に回想形式で描かれる。旧家に育った少年と、2歳年上のいとこの少女との淡い恋愛が、古い道徳観に縛られる大人たちによってとがめられ、二人は離ればなれにされたうえ、少女は嫁ぎ先で少年の手紙を握りしめて死んでしまう。その思い出を回想する場面で、木下監督は、スタンダード・サイズの画面を白地の楕円形で囲むという大胆な表現形式を採用し、シネマスコープならぬ「たまごスコープ」と称されて話題となった。この作品では、木下の叙情性がストレートに表現されているとともに、詠嘆的美しさとしての完成度が感じられるものとなっている。主人公に起用された有田紀子と田中晋二は無名の新人で、演出意図に沿った初々しさを充分に発揮している。「キネマ旬報」ベストテン第3位。