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	それが原風景として心に刻まれてきました。
	そして雪国に生まれ雪を愛した自分だからこそ描ける世界がある
	という使命感のような思いの中、題材として選んだものは純白の
	雪景色でした。
	しかし、雪を描こうとした際、難題が立ちはだかります。
	それは、雪を表現しても当時の白油絵の具が時間の経過とともに
	黄変してしまうことでした。
	そこで自ら絵の具の開発に取り掛かり、試行錯誤を重ね、ようやく
	理想とする白油絵の具「トミオカホワイト」が完成します。
	また、従来の絵筆では思い描く雪の世界が表現しきれなかった
	ため、パレットナイフを刀鍛冶に特注して製作しました。
	富岡の白の世界は、絵の具・描画道具・描画方法がひとつになり
	作り出されます。
	故郷上越市高田で養われた粘り強い性格で、幾度となく繰り返す
	失敗にも諦めずに挑戦し続けた結果、これらの方法が確立されました。
	 
	
白油絵の具は必ず黄変し、そして厚く塗ると亀裂したり剥離する。
	雪の白に魅了された画家 富岡惣一郎の「白の探求」は、36歳(1958年)
	から始まります。しかし、当時市販されていた白油絵の具は描いて
	2~3ヶ月経過すると黄変、亀裂、剥落が起こり、雪の白を表現しても
	長期間、維持することができないという難題が立ちはだかります。
	世界中から白絵の具を取り寄せ試作をしますが、どれも理想とするもの
	ではありませんでした。
	そこで、研究者とともに2年の歳月を重ね「トミオカホワイト」が完成。
	この絵の具で描いた作品は、
	1962年に第5回現代日本美術展 第1回コンクール賞〈黒い線〉を受賞、
	翌年には第7回サンパウロ国際ビエンナーレ展で近代美術館賞〈永遠の流れ〉を
	受賞し国内外で高く評価されました。
	 
	
	従来の絵筆では表現しきれない雪を描くため、大小様々なパレットナイフを
	刀鍛冶に特注し、絵の具を均一に塗る作業やモチーフを削り出す際に用いられ
	ました。
	刃先10㎝ほどの小さなナイフから順に使用し、最後に画家がダンビラと呼んだ
	両手持ちの道具で均一に仕上げます。
	100号サイズのキャンバスを平らに仕上げるために2時間を要しました。
	平滑な画面を作り出す作業は根気と体力のいるものでした。
	
	大きく分けて2つの描画方法があります。
	
	ひとつ目は、刷り込みによる方法です。
	①キャンバスに白絵の具を均一に塗ります。
	 100号サイズのキャンバスを均一に仕上げるのに2時間を要しました。
	②乾ききる前にナイフでモチーフを削り取ります。
	③白絵の具が完全に乾いてから、黒色絵の具を全体に塗ります。
	④布で黒色絵の具を拭き取りながら、白と黒を調整し完成させます。
	ふたつ目は、削り取りによる方法です。
	①キャンバスに白以外の絵の具(黒、青、赤など)を均一に塗ります。
	 この工程は、非常に繊細な作業でした。晩年になると、
	 キャンバスに色を塗ったものを業者に発注していました。
	②①の上に白絵の具「トミオカホワイト」を塗り重ね、乾ききらない
	 うちに、ナイフでモチーフを削り取ります。
	③削り取った部分の下地が現れ、完成となります。